松井:動物虐待の厳罰化を訴えるきっかけとなった事件が、埼玉県の元税理士による猫13匹殺傷事件でした。同じ年の6月頃にも、千葉県成田市で生まれたばかりの小さな子猫2匹を、排泄させるふりをしてティッシュで激しく擦り、なぶり殺す動画が出て大きな騒ぎになりました。この事件に関しては、JAVAさんと共同で告発をしました。
その後、8月に猫13匹殺傷事件が起き、11月末に元税理士の初公判があり私たちは傍聴に並びました。400人以上並びもちろん私たちは抽選に外れましたが、抽選券を入手した方が、杉本に代わりに見てきて欲しいと託して下さり初公判を傍聴しました。
杉本:傍聴券を託して下さり引き受けたからには、最大限に生かし皆さまに訴え、何とかしなくてはと強く思いました。初公判を見て思ったのは、まずほとんど反省を感じられませんでした。これは、快楽を目的にしたサイコパスがやったことという印象が強く残りました。しかも実刑が付かなかったことに強い憤りを感じ、何かせずにはいられませんでした。
松井:そして12月に判決があり、懲役1年10カ月、執行猶予4年。裁判長からは「犯行を正当化する余地はなく、動物愛護の精神に反する悪質なものであるが、これまで前科なく生活をしていて、税理士の職に就いていたが、本件について広く報道され、税理士の職業は廃業に至ったことから、執行猶予4年とする」というような判決文が読み上げられました。その後、私たちはどうしても納得がいかず、東京地裁の司法記者クラブに行って記者会見を行いました。
杉本:とにかく動物虐待の厳罰化というのは、絶対に必要なことだと思いました。これは動物の命を守ることはもちろん軸にありますが、私たち人間の安全な暮らしや命を守ることにもダイレクトにつながるのでこれは急務だと思いました。そして判決から1週間後に、私たちは署名を開始しました。
松井:1回目の署名は、2月15日に締め切りましたが、国会の延長に伴いもう一度2週間位再開しました。そのたった2週間で1万8000筆位集まり、真筆とネット合わせて10万筆の署名を集めることが出来ました。その後、この10万筆の請願署名を持ってロビー活動を行いました。官邸に行って、西村内閣官房副長官に署名のご報告。また真筆署名を提出するにあたり、30名の方に紹介議員になっていただき、その先生方を通じて衆参両議長宛てに提出していただきました。私たちはどこに働きかけたらいいのか色々な方の助言を聞いて、環境委員の理事の方々にもほとんど会いました。
杉本:もう会わなければいけない人には全て会いました。しかし署名の結果は、残念なことに特段の理由もなく不採択という事で本当に納得がいきませんでした。これはもういてもたってもいられず、今度は罰則の引き上げに請願内容を絞りすぐ署名を再開しました。皆さんからは署名と共に熱い思いがつづられたお手紙もたくさんいただきました。また、事務局には「代筆では駄目なんでしょうか」等々、本当に細かいお問い合わせを沢山いただきました。私たちは、これが国民の声で、この一筆一筆がいかに思いがこもった重いものかということを改めて感じました。
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松島花さんより
杉本:モデルの松島花さんが、インスタでたくさん呼び掛けて下さいました。松島さんが発信してくださった事でさくさん署名をいただきました。今回ご協力をいただき心よりお礼を申し上げたいと思います。今日は、松島さんにお越し頂いていますので一言いただければと思います。
松島さん:私の母はTNRなど地域猫活動をしておりまして、その母の影響で小さい頃から保護猫や保護犬、そして殺処分の現状を知っていました。
最近、少しずつですがメディアに出ていく機会も増えてきましたので「自分で発信していきたい、何か変えていきたい」と思うようになりました。今日この場に来ていらっしゃる皆さまは、本当に熱意がありたくさんの知識をお持ちの方だと思いますが、私のインスタを見てくれているファンの方や、10代20代の若い方というのは、殺処分があることすら知りません。保健所にあれだけの収容数のわんちゃん猫ちゃんがいるのを知らないので、とにかく「伝えていきたい、知っていただきたい」という思いで多少の知名度を生かして何かできることはないかと思い、去年の4月に動物専用のアカウントを立ち上げてインスタグラムで微力ながら頑張っています。ですので、できるだけ署名をたくさん集めたいという思いでやっていました。そしてもっとこの活動を勉強していきたいという思いで、今日は参加させていただきました。
杉本:若い方に発信してくださる影響力のある松島さんの存在はとても大切です。これからもどうぞ可能な限り発信よろしくお願い致します。芸能界でこういう活動をすることが、どれだけ大変かというのは誰よりも私が一番分かります。その中で勇気を持って発信してくださることは、本当にありがたいです。テレビなどで、こういった問題について発言されている方に「ご協力いただけますか」とお声がけしても残念なことに大体お断りされます。ですから、今回ここにお越し下さったことは、本当に私たちとしても大変ありがたいことだし嬉しいことです。今後も力を合わせていきましょう。
第2回請願署名・超党派議連他
松井:私たちは2回目の請願署名を集めつつ、一方で超党派議連のアドバイザリーとして動愛法改正の会議にも出席していました。議員の先生方、私たちアドバイザリーともども、条文化作業では毎回3時間に渡り、議論の積み上げを行ってきました。
改正案が昨年の通常国会ではまとまり切らず、秋の臨時国会に持ち越しとなりましたので、法案提出に合わせて請願署名も提出しようと思っていました。しかしどうやら、動愛法改正がまた更に、年明けの通常国会に延びるようだという話しが浮上してきました。そうなると、たくさん届いている署名を秋の臨時国会に出しても意味がないと思い、翌年(2019年)骨子案が各党で協議されるタイミングに、私たちの手元にある署名をぶつけるのが一番効果的じゃないかという結論になり、締め切りが11月頭だったのを、今年の2月20日に延ばしました。すると、事務局にものすごいクレームが来まして「11月締め切りだと言って集めてたのに何で延ばすんだ」「謝罪の記者会見やれ」等々でした。
杉本:皆さんにこれだけご尽力いただいたからには、いかにして有効に提出するかまできっちり進めないと皆さんのご協力が無意味なものになってしまいます。そこは慎重に扱わなければいけないところでした。ただ、改正延長については議連の発表の前に当協会からは公に言えません。今後もし私たちが運動する際にはその辺りもご理解いたいだいて、私たちを信頼して託していただけたらと思います。
松井:そして、昨年の12月第10回総会に骨子案の報告があり、法改正が年明けに持ち越し確定となりました。その後、衆議院議長の大島理森議長のところにも陳情に行きました。私たちが虐待のことを訴えると「それは立法府の判断ではあるけれども、厳罰化においては賛同する」というお言葉をいただきました。その後国会議員の方々にたくさんお会いしそのことも伝えさせていただきました。
2回目の署名は、最終的には25万筆程集まりました。それを、今回は60名の方に紹介議員になっていただき衆参両議長宛てに提出していただきました。
その後法改正は、超党派骨子案を各党協議するためにヒアリングに多数呼ばれました。公明党、立憲民主党、国民民主党、そして今まで一切呼ばれることがなかった自民党動物議連にも行きました。
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ロビー活動・厳罰化の成立
杉本:自民党の動物議連の会議を受け、元環境大臣の中川議員を訪ね、どれだけ残虐なことがこの世の中で行われているのか動画をご覧いただきました。議員として1人の人間として、時にすごく心を動かしてくださったと思う瞬間が多々ありました。
そして、公明党にも陳情に伺いましたし、超党派である社民党の福島議員、そして共産党の武田議員のにも改めて厳罰化の必要性を訴え追加資料も送りました最後の最後までしぶといロビー活動をしました。
そして、5月22日の議連総会で初めて日本犬除外の話しを知りました。本当に驚き開いた口がふさがらないそんな感情が襲ってきました。
松井:そして、6月12日参議院の本会議で法改正が可決成立。殺傷に関しては2年以下の懲役または200万円以下の罰金から、5年以下の懲役または500万円以下の罰金。虐待・遺棄に関しては、私たち、3年以下の懲役、または300万円以下の罰金を訴えておりましたが、現行100万円以下の罰金が、それに1年以下の懲役が付いた状態で、1年以下の懲役または100万円以下の罰金で、厳罰化が成立いたしました。
杉本:諦めなければ私たちの思いで法律を変えていけると実感しました。街頭で集めてくださった方もいらっしゃいます。身近な方に一生懸命声をかけて下さった方もいらっしゃいます。改めまして皆さまに感謝申し上げます。
今回厳罰化は一歩進みましたが、これで十分だと納得せず、今後遺棄や虐待もさらに私たちの強い要望を持って引き続き引上げを訴えていきたいと思っております。
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質問1:厳罰化を徹底するため、摘発、検挙など、実際どのように増やしていけるのか。
虐待への厳罰化が成立したのだから有効に活用するにはどうしたらいいのか。有効に活用しなければ、虐待への抑止にならないのではないか。
松井:当協会にも虐待のご相談がたくさん寄せられます。その際私たちが思うのは「通報の精度を上げること」です。証拠がない状態での「助けて」というご相談が多く「ブログやSNSで見た」「こんなことが起きているから調査しろ」など色々相談があります。「Evaだったら何とかしてくれる」という思いがあり、皆さまご連絡下さいますが、民間団体には行政のような立ち入り権限もなければ警察のように捜査権限もありません。証拠となる写真や動画、証言を揃えてからでないと、私たちも行政や警察に持っていけません。ですから、虐待をどうにかしたいと思ったら、その人がそこでどれだけの信憑性のある証拠を集められるかということだと思います。そういう証拠を警察や行政に持って行き、それでもどうしても取り合ってもらえない時はこちらにご相談していただければ、そこから何が出来るか考えることができます。
厳罰化を適用して、正しく運用させるには、きちんとした証拠を集める。冷静な判断、人の話ではなく、自分が見た状況の証拠をきちんと集めることが大事だと思います。
質問2:虐待や遺棄については現行法に1年以下の懲役が加わり、事実上は引上げになっていますが、遺棄や虐待は死につながることもあり、その意味では殺傷と何ら変わらないと思います。黒ムツと呼ばれている輩の虐待、一般人の遺棄、命を命として扱っていないパピーミル業者、動物の保護活動と称してお金を集め、実際は劣悪な飼育環境下で保護をうたっている広島や茨城の団体など、今回の引き上げでは甘すぎます。5年を待たずに改正できないのか。
松井:ネグレクトも、殺傷と何ら変わりがないというのは本当によく分かります。死につながると分かっているのに、その結果死なせてしなった場合。死んでしまうのは想定内だったわけですから、それは未必の故意としてネグレクトに加え、動物殺傷でも十分問えるだろうと思える事案も多々あると思います。ただ、その場合殺傷を立証できる証拠が必要です。写真もしかり、死体の証拠と死亡報告書で確実に犯罪事実として特定できるかというのが重要だと思います。このあたりは、佐藤先生に補足していただきます。
佐藤弁護士:やはり全て証拠の世界です。警察も告訴や告発を受理するのにどれだけ証拠が揃っているかを見ます。殺傷だと本当に死体はあるかその報告書など。死体がどうであったかを詳細に聞かれそこがはっきりしないと「難しい」という話しになります。多数いる所で、順次亡くなる状況だと、未必の故意となり当然死ぬだろうということですが、なかなか死体がないと難しいのが現状です。なので、そういう場合は今日のことを思い出していただき、証拠として取れそうなものは全て取っておくという対応をしていただきたいです。
松井:虐待の罰則ももちろんそうですが、今後必要なのは、緊急一時保護ができる仕組みです。完全に所有権を放棄させるとか譲渡させるではなく、一時的に停止できる仕組みです。死んでからでは遅いので、まず保護出来る仕組みが必要ですが、日本は所有権の問題でこれがなかなかできないという大きな壁があります。
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質問3:法律が施行されて、それをしっかり運用していくには、まだまだ課題がありそうです。警察は何かあってからでないと動かないので、そこが気がかりです。アニマルポリスが実現して、もっとしっかり取り締まれる体制が必要ではないかと思います。
杉本:アニマルポリスを日本に開設することは、私が協会を立ち上げる前から、署名運動など精力的に動いてきました。私が現在「大阪ワンニャン特別大使」を務めている経緯から、前大阪吉村市長、現大阪吉村府知事とお話しする機会が度々ありました。その際、アニマルポリスの必要性をお話し、大変ご理解いただいてます。現在、大阪府は大阪市そして大阪府警と連携し、新たな取り組みとしてアニマルポリスを設立する計画のもと進行されています。ですから、本当に今後の大阪に期待しています。
国でなかなかできない事は、各都道府県で取り組んでいたき、それが広がっていけばと考えています。大阪でのアニマルポリス設立の件は、数年前から浸透させていた事でしたので、今回の大阪の取り組みが、今後日本中に大きな影響を与えるのでないかなと期待しております。
質問4:虐待に関する定義があいまいなままなのが心配です。何をしたら虐待であるか明言できるラインがよく分かりません。
松井:環境省が虐待に関する事例などを出しています。そういった事例もありますし、委員会決議にも「動物虐待への対応にあたっては、動物虐待などの該当性の客観的な判断に資するよう、事例の集積やそれらの分析評価を進め、それによって得られた知見を活用した地方自治体職員等の人材育成を支援するとともに、関係機関及び民間の団体との一層の連携強化を図る」と書かれています。「客観的な評価に資するよう分析評価を進める」とありますので、今後虐待の定義がどのように定められていくか私たちも注目していく必要がありますし、定義されたものを持って「これは虐待です」と警察に理解を求めるなど有効に使うことが出来たらと思います。
質問5:動物殺傷罪の厳罰化は名目上は執行猶予がつかず、懲役刑を言い渡すことができるようになるわったので、大きな成果のように思います。ただ、裁判官が実際、そのような懲役刑を言い渡すのかどうか。法の施行後の動向を注意したいと思います。
佐藤弁護士:今後さまざまな悪質なケースが増え世論も高まれば、裁判官も社会の動向を見ることは間違いないです。あと量刑相場、どういう量刑を刑の幅の中で判断していくかということも、社会の動向を見て判断します。そういう意味で今後裁判官が実際にどう言い渡すか注視したいと思います。
やはり、世論が「悪質な犯罪を許さない」「動物に対する犯罪は許さない」そういう気風を作っていき、裁判官が刑を言い渡しやすくなる状況を作っていくことが大事かと思います。
杉本:動物虐待の事件に関わらず、納得のいかない判決は世の中にあります。今後引き上げになったにも関わらず、納得いかない判決を下す裁判官も名前をチェックしておくべきだと思います。選挙のときに「最高裁判所裁判官国民審査制度」がありますが、意見を反映させていかなければいけないと改めて思いました。
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