太田記者:先ほどの議連総会の中で生方先生が、本来10歩進まなければいけないところが3歩だった、とありましたが、前回及び前々回の法改正からの経緯を見ると、今回大きく前進したことは確か。それは、超党派議連が前回と違い今回存在し、本日いらしている先生方が心を一つにして目的に向かって進んでいかれたというのが、取材中に見て取れました。それが最後、非常にうまいかたちで良いところまでもっていけた、大きな前進だったと思っています。
高井先生:議員立法にここまで携わったのは初めて。議員立法も色々ありますが、今回の動愛法改正案は環境省が作ってもおかしくないくらいの非常に大きな内容になった。また改正事項が沢山ありました。本当ならこれを去年の今頃決めなくてはいけなかったのですが。
特に、去年の夏、国会が閉会中の夏休みに、ほぼ毎日のように出てきて、しかも国会議員の会議で何時間も行う会議はなかなかないのですが本当に毎回3時間かけてました。また、アドバイザーの皆さんや法制局、環境省にもお付き合いいただきました。議連総会で牧原座長が「家族の顔を見るより、この条文化チームの顔見るほうが長い」という挨拶をしていましたが、本当にそれぐらいの時間をかけてなんとか作りあげました。ただ、やはり皆さんそれぞれ思いがありますので決して100点ではない。私も生方さんがおっしゃったように、10歩のところが3歩だろうと。しかし必ず10歩まで行くように、今日からが次のスタートだという気持ちで頑張っていきたいと思っています。
生方先生:今日が交付日ということなので、施行は今日から1年後。2年後に数値規制と8週齢規制が施行となります。実はこの8週齢規制に附則が付きました。「日本犬(天然記念物)はペットショップでは販売されないので、7週にしてくれ」という要望が自民党さん側から強く出されました。1回穴を開けてしまえば全てが例外規定となり、8週齢が実質的に骨抜きにされてしまう恐れがあります。なので私は「8週齢が守れないのなら、もうこの動愛法は成立させなくてもいいじゃないか」と言いました。しかし「どうにかまとめてほしい」という声がありましたので、極めて限られた天然記念物として飼う場合にのみ7週齢でも良いとしました。本当に例外中の例外です。
ペットショップで売っている日本犬に関しては、8週齢以上でなければいけないといことは確実になりましたので、それならばということで我慢をいたしました。
今回一番大きな改正点というのは、厳罰化が一つと、二点目は違法なブリーダーに対し登録を取り消すことが可能になったこと。もう一点は、私がこだわった殺処分をゼロにしなければいけないということ。殺処分する場合は、少なくとも国際的基準に則って殺処分をしなければいけない。また、今の動物愛護関連予算というのは、3億円位しかないのです。最低でも300億円位にしていかなければ、動物の命を守ることができないので、ぜひ皆さんも動物愛護関連予算を増やしてほしいと訴えていただきたいです。
中野先生:今回、公明党の動物愛護の責任者の委員長ということで携わらせていただきました。
動物虐待の色々な映像も拝見し「絶対に許せない、絶対に変えないといけない」という強い思いで臨みました。やはり一番力になったのが多くの皆さまからの署名です。多くの議員へ働きかけをしていただき、皆さまからの署名が後押しとなりそれが力となり、国民の熱意・総意がある、ということで、今回なんとか厳罰化5年で成立をすることができました。
法律ができてからが一番大事なところで、この施行に向けての取り組みが、今後の大きな宿題だと思っています。せっかく多くの皆さんの力で素晴らしい改正となった動愛法です。更に良いものとなって現場で運用されるよう頑張っていきたいと思っています。
福島先生:超党派で2014年に犬猫殺処分ゼロを目指す動物愛護議員連盟を立ち上げ、もう5年になりました。そして、PTを立ち上げたのが約2年前です。総会を開き、PTや条文化作業をやり、色々なことを沢山してきました。そして、今日がまさに改正法の公布日で、1年後に原則として施行され、8週齢と飼育基準は2年後、マイクロチップについては、3年後に施行になります。
今回8週齢が難航しました。もし附則が削除されなかったら改正と言えるのか、という思いでやってきました。8週齢の施行時期に関しても1年目なのか2年目なのかで随分議論しました。日本犬に関しては、この条文によれば、販売業を通過する場合は8週齢で個別は7週齢。ただ専門的な人たちとのという意見もあるので、どこがどういう血統書を出しどのような販売でどこが例外になるのか等々、運用面の点で環境省と一緒に皆さんたちと頑張っていきたいと思っています。
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8週齢規制について
杉本:事前に会場の皆さんからご意見やご質問をいただいていますので、それらに沿って進行いたします。まず、一番質問が多かったのは8週齢規制の日本犬除外の件です。頂いたご意見の中には「柴犬の劣悪な繁殖業者などを知っているがそんな業者も対象になるのか。」です。8週齢規制の例外措置についてコメントお願いいたします。
生方先生:当初は、秋田犬は規制をしないで欲しいという要望でした。秋田犬は、ほとんど一般に流布してなく、ブリーダーとの長い付き合いの中で譲ってもらうという話しを聞きました。しかし、柴犬はペットショップでも沢山販売しています。天然記念物だからといって規制を緩めるわけにはいかない、という事でペットショップで売る分については一切7週齢は認められないと言明いたしました。そして、天然記念物であるという血統書を発行できるのは、今現在出しているところに限る。違反した場合、登録を抹消する規制も盛り込みました。実際の運用の中でひどい事例が出てきたら、それは法改正で対応していけばいいと思っています。
杉本:消費者に直販しても、大量繁殖させ劣悪環境に置いているブリーダーが存在するのも事実です。今後どのような規制が掛かってくるのか、また繁殖に関して「大量」の定義をどうするのか注視していきたいです。改めてこの件に関して懸念される点や今後の課題についてお願いします。
太田記者:次の法改正が動き出すという段階の2017年頃から、秋田犬保存会会長である遠藤敬議員が「8週齢規制には反対である」という話しは聞いてました。8週齢規制の問題がより具体化していく段階で、遠藤議員からの発言を公に聞くことはありませんでしたが、土壇場で自民党どうぶつ愛護議員連盟の総会があった2019年4月25日に反対を述べられました。このときの日本犬保存会の会長である岸信夫議員と、遠藤議員の発言をまず押さえておきたいと思います。
まず岸議員の発言から「日本犬は洋犬と比較すると比較的原始的なDNAを持っている。狼のDNAと近いと言われ、早期に親から離して一緒に暮らすことにより、心が穏やかになり人間社会の中で安定して暮らすことができる。日本犬は、ブリーダーから直接購入するのがほとんどであり、ペットショップ経由で販売される洋犬とは形態は異なっている。飼いたいという人の意識や子犬に対する責任感、飼育に対する責任感も異なっている。飼育放棄や捨て犬、さらには殺処分に至ることも少ないと考え、8週齢規制が適用されるようになると非常に難しくなる」などと言っていました。
遠藤議員は、どこかの新聞が書いた記事を引用し「親子の関係が薄いと行動がおかしくなると書いているがこれは逆である。人間と犬が調和するのが全てで犬同士の調和というのはない」と発言をされていました。かつ、これはよく聞く議論ですが「56日以降になってくると母犬が痛んでしまう」と。「母犬が大きく痛むのは可哀想という議論が抜けてるのではないか」という話をしていました。
これについて、米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生も指摘しています。狭いところに置いておくから、大きくなった犬が母犬に対して多少噛みついたり暴れたりするのだと。これは、狭い犬舎に入れられてることが問題であり社会化期の問題ではありません。むしろ、親を少し噛んだ時に「痛い」ということを教えらえるのは人間でなくて犬同士です。そういう行動を起こす事が大切なのですから、遠藤議員がおっしゃってる事は、行動学上おかしな話しであります。
もう一つ、岸議員が言っていた「日本犬を捨てたり、殺処分は少ない」という話しですが、ちょっと古いですが、2007年度に関東近県の29の自治体に対して犬の引き取り申請書の開示請求をしたことがあります。そこには、捨て犬の犬種が全部書いてありますが、このとき純血種が4,253頭その内、日本犬は、柴犬が701頭、秋田犬が121頭、紀州犬が63頭、甲斐犬が35頭、北海道犬が17頭、四国犬が15頭、合わせて952頭でした。つまり、22パーセント、4匹に1匹ぐらいは日本犬であるのに、何をもってこういうことおっしゃっているのか非常に不思議です。
かつ、狼のDNAの話しがありましたが、これはどちらかというと原始的な犬種群というのがあり、ここに分類されるのは日本犬だけでなく、バセンジーやチャウチャウ、シベリアンハスキーやアフガンハウンドなどが、同じカテゴリーに分類されるので日本犬だけが特に狼に近いわけではありません。
また、屋内で飼育されている人気14犬種の中で、柴犬というのは、特に家族に対する攻撃と他犬に対する攻撃で上位を占めます。このような行動上問題を起こしやすい犬であればこそ、本来8週齢規制を適用し、きちんと社会化されてから飼い主に渡すのが、本来この法律を作るにあたって考えたことを顧みれば適正です。日本犬だけが天然記念物の保存という不思議な理由によって除外されたのは、あってはならない問題だと思っています。
しかし、法律ができてしまいました。附則で日本犬だけは、一般の飼い主さんに販売される際に限って適切な社会化期を施されないまま、さらに言えば、わざわざ世界小動物獣医師会が8~9週齢での1回目のワクチン接種を推奨してるにも関わらず、つまり免疫的に守られない状態で日本犬だけが、今後世の中に出て行くことになります。
その上で、今後何を検討していかなければならないのか。一つはやはり血統書の問題です。天然記念物とは何かということを文化庁に問い合わせたら、これが柴犬であるという定義はしてないそうです。しかし、法律で適用除外をする限りは、どれが柴犬かということは、定義しなければいけないと思います。
一方で、血統書は色々な団体が発行しています。日本犬だけを見ると、日本犬保存会が出している柴犬血統書は、私達がイメージするタヌキ顔の柴犬が、柴犬のスタンダードだとして血統書を出していますが、天然記念物柴犬保存会は、キツネ顔の日本犬こそが柴犬であるという主張を持ち、あえてキツネ顔の柴犬に対し血統書を出してます。となると、一体日本犬のそれぞれの犬種とは何ぞやということが精査されなければ運用できません。どの団体が発行する日本犬が日本国において認めている天然記念物なのかということを、定義しなければこの法律は機能しないと思っています。
また、最近ではDNAによって犬種が特定できるようになっています。膨大なDNAの中の最後の10%位の中で、犬種の違いが見られるそうです。であれば、例えば、DNA登録をきちんとしている団体であることなどを規定する。そういったことを必ずやらなければいけないことです。
最後に、ペットショップに行っている犬がさも少ないようにこの適用除外を求めた方々は言っていますが、日本犬保存会のホームページには、年間5万5000頭の血統登録がされていると書かれています。人気第2位のチワワが4万9000頭なので、チワワより多い数が国内で流通してます。日本犬保存会関係者に取材したところ、大体日本犬保存会が出してる血統書は3万頭であり、そのうち肌感覚だけど半分位がペットショップに行き、残りは自分たちが売っているのではないかと言っています。ですから、少なくとも1万頭~2万頭ぐらいは仮に適用除外になるのであれば、年間犬猫合わせての販売量が50万頭程度ですから、相当なボリュームの適用除外ができる訳です。だからこういうことが許されてはいけません。ただ、こうなった限り今後血統書できちんと縛っていくことを国会議員の先生方、環境省の方で検討すべきだと思っております。
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産業動物・実験動物について
杉本:そして犬猫だけでなく、全ての動物の福祉が守られる法律であって欲しいと願う皆さんからのご意見が多かったです。まず、産業動物や実験動物に関して改めてどのような内容が明記されたのでしょうか。
高井先生:皆さんの思いが反映しきれなかったことに率直に反省をしております。それぞれ産業動物も実験動物も守らなければならない基準が定められているのに、それを順守しなければならないと法律に書いていなかったのでそれは守りなさいと明記しました。
それから関係機関の連携です。畜産部局や、あるいは公衆衛生、屠畜場などの連携ができていなかったことにより、動物愛護法の基準が部局に伝わっていなかった。しかし今後は自治体の中でも関連部局との連携で、環境省の基準をしっかりと守ってもらえるようにすることを法律に入れました。それから、附則のところで実験動物については、3Rを今後しっかり検討し必要な処置を講じなさいということを挙げております。
今後省令を作っていくのは環境省になりますが、環境省には数百時間我々の議論に参加してもらいましたので、我々立法者の意思は十分伝わっています。ですからこれにたがうような省令は、夢夢作られないと信じておりますが、今後も議員連盟としてしっかりフォローして参ります。
最後に先ほどの議員連盟総会で、逐条解説を作ることが確認されました。今回数百時間かけて検討したことを、できるだけきちんとした1冊の本にまとめ、この条文にはこういう意味があり、こういう経緯で入ったということを残しておけば、今度省令を作る際にもそれを守っていただけると思うので、できるだけ早く逐条解説を作りたいと思っております。
岡田さん(アニマルライツセンター):畜産動物については、ほとんど検討の時間を作っていただけなかった事が心残りです。ただ、一度条文委員会や検討委員会でヒアリングをしていただき、その中で訴えた関係部署との連携強化の部分。ここは何と言っても既に入っている行政の方々が動物愛護法について指導できるようになる。これまでほとんど、虐待を注意してくださらなかったのが、今後注意してくださるのではないかと、中から変えていくことができる大きな一歩であったと思っています。
ただ、そもそも意識が薄いところですので、より強くそして具体的に規制していかないといけません。今後は、農林水産省や厚生労働省と連携をより深くしていただきたいと思います。
そして、畜産動物だけではなくいわゆる展示動物についても改正していただいてます。これまで犬猫だけに規定されていた、帳簿の備え付けや報告が全ての動物にかかるようになりました。これは非常に大きい。例えば、爬虫類やその他のエキゾチックアニマルにもかかるということが、非常に大きな改正でした。色々な意味で使える法律、実効性の上がる法律になったと考えています。
森さん(時事通信):実験動物についてまず始めにやるべきは、動物実験施設の届け出、あるいは登録制の導入だと思います。7年前の改正論議の時、届け出制を入れようという動きがありましたが、一部医系議員の強硬な反対で法案行使の段階で落とされた経緯があります。今回の超党派議連でも、中心は愛護動物であり実験動物は産業動物と同様に積極的な議論、検討は非常に少なかったと感じています。ですが愛護団体さんの熱心な働きかけもあり、どうにか動物実験の国際原則の3R、動物の体を傷付けないで代替法を検討する。どうしても動物を実験に使う場合は削減する。動物の苦痛をできるだけ軽くする。という原則がありますが、現在この苦痛軽減だけが義務となってるのを、代替法と削減についても義務にしようと当初骨子に入りました。
しかし、昨年12月に骨子案の3Rの原則だけが猛烈な業界の反対に遭いました。まず3月12日に立憲民主党の医系議員である吉田統彦議員が、衆院厚生労働委員会で根本厚労大臣に対し「京都大学の山中伸弥教授が3R義務化になった場合、自分の研究の追行に大きく関わると危惧している」というコメントを引用して、3R義務化に反対する答弁をしました。
私は、この2人に質問し文書で回答をいただきました。吉田議員は「国民が新しい薬品、医療機器、化学構成品は不要と考えるなら義務付けは必要です」という極端な言い回しで反対する理由の一部を説明されました。そして、山中教授からは「私たち研究者も動物実験をできる限り削減したいという思いを強く持っており、引き続き3Rを順守するのは当然のこと。法改正は、動物実験の必要性を明確にした上で議論していただくことを要望します」という回答がきました。
そして、その3日後に開かれた、超党派議連PTの動物実験に関するヒアリングの中で、公立私立大学実験動物施設協議会の会長さんと日本実験動物学会の会長さんが「3Rを適切に守ってきた。今後義務化されるのは、我々としては法規制で強化される、気分的にはやりにくくなる」と話され、その言葉に驚愕しました。私のこれまでの取材によると、実験動物の使用数やどのような実験に使っているかの統計も明らかではない。獣医師を置く規定もないし、義務であるはずの苦痛軽減についての調査データも何も出さない業界が、何の根拠をもって適切に3R順守していると胸を張るのか、私は疑問だらけです。
そして、3月26日には、動物実験関係者連絡協議会(以下 動連協)が、動物実験で大きな問題発生はないなどとして、改正する必要はないという要望書を出してきました。賛同数は4月26日時点で、動物実験を行っている120の団体全てに上っています。そして、この動連協が反対声明を出す前日の3月25日に、骨子案から3R義務化は削られました。
結局、法律の附則の第8条と第9条に、今後動物実験施設の在り方についての検討、義務化の検討というのも、先生方のご努力で入れていただきました。ですが、この附則自体必要性がないと決まった時は、また棚上げにされるのかと危惧してます。この内容ですら与野党問わずに今回反対があり非常に危うい状態でした。そこをまとめていただいたのですがあらためて私としては関係する業界のとてつもなく大きな壁を感じております。
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数値規制について
杉本:昨年3月から環境省の審議会にて数値に関する議論が進んでいますが、それが骨抜きにならないか非常に心配されている方が沢山いらっしゃいます。動物福祉を念頭に置いた検討会になっているのか、業者寄りの数値になりはしないかということを懸念されています。
中野先生:今回の法律改正で、数値規制、遵守基準を具体化しようということは非常に大きなテーマでした。例えば設備の構造や従事する従業員がどのくらいなのか。これらを具体的に定めないといけないという我々の主張のもと法律を作りました。これから役所で審議会・検討会をやっていきます。その中で、中身をしっかり入れて我々もチェックをしそれが大丈夫なのか、引き続き活動としてやっていきます。
杉本:くれぐれも学者の方だけでなく、現場を知っている方々もメンバーとして入れて頂き、その経験や知識が反映されていくことを私たちは願ってやみません。
続いて今後省令で定められる数値規制に関して、第二種の動物取扱業いわゆる動物保護団体、そちらの施設のほうにも関わってくるのでしょうかというご質問をいただいております。
長田さん(環境省動物愛護管理室室長):現状の制度においても準用規定があり、第二種についても同様に順守すべきとなっています。ただ第一種は登録制なので取り消し等ができますが、第二種については届け出制なので取り消しは制度上ありません。ですから、自治体が指導等はできるので、指導・勧告に従わなければ罰則となります。基本的に動物の殺処分を減少させるために、協力をしていただいている団体ということで、理解を得ながらしっかり規定は守っていただくことになります。
杉本:数値規制をしっかり定めることで、今後行政の取り締まりや告発時の証拠として、かなり重要なものになってくるのではないかと思いますが。
佐藤弁護士:今でも、行政は遵守事項の違反があれば、改善勧告や命令、業務停止命令など色々できるわけです。立ち入り調査もそれなりにされていますが、なかなか処分はしたがらない。それはどうしてかというと、行政処分というのは処分される業者側から見れば、不利益な処分ということになるので行政の側もどうしてそれが駄目なのか根拠を示さなくてはいけない。また、弁明があればそれも聞かなくてはいけない。そういう中で駄目な所が明確でないとなかなか処分しづらいのです。
今回の改正で具体的な数値基準も決めていくので、それが実現すれば、数値というのは客観的に誰が見てもその数値ということになるのでかなり明確です。やりやすい方向になっていくと思います。ただ、あくまでこの基準がきちんとしたものでなくてはいけないので、国際的な福祉に沿ったものなのか科学的にどうなのか、その辺りはしっかり見守っていかなくてはいけません。
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マイクロチップの義務化について
杉本:続いて、繁殖業や販売業に対するマイクロチップの義務化ですが、あらためてマイクロチップ装着を義務化した理由をお聞かせください。
福島先生:前回の法律改正のときの附則に、マイクロチップの義務化について検討するというのがあったので、検討しない訳にいかなかった。しかし一般の飼い主さんまで義務化することはやっぱり難しい。ですからブリーダーから売る場合。またペットショップの場合は、マイクロチップを付けている場合がほとんどですから、そこはトレサビリティを強化する。繁殖から販売のルートがトレサビリティも含めてしっかり行われればと思っています。一般の方は努力義務となります。また制度設計に3年かけ、そして施行となりますが、まだまだ何を登録するのかどういう仕組みにするのか、私たちもよく勉強しウォッチし、環境省とも連携しながら、まともな制度になっていくようしっかりやっていきたいです。
太田記者:まずどういう情報を入れていくのかを整理しなければいけません。チップを入れなくても罰則はないので、繁殖業者だけに任せていたら駄目です。ペットショップは大手が多いので、チェック機能が働くと思いますが、ペットショップの責任としてしっかりやっていただきたいです。
また、血統書も出生日を偽っているものが横行しているので、出生日についての担保機能は弱いと思います。一方で、マイクロチップを獣医師が繁殖現場まで打ちに行くのであれば、譲り渡す日までにチップを装着しなくてはいけないので、その時に7週か8週か45日か位は、獣医師がある程度見分けがつくと思います。今後、獣医師の通報義務も入ってくるので関連して見ていけると良いと思います。
また、マイクロチップは確実かというとそうではないというのが取材で分かってきました。例えば、埼玉県内の保護猫カフェで猫8匹にマイクロチップを入れたら、そのうちの5匹で書類上の番号と、リーダーで読み取ったときの番号が違うという事例がありました。これは、製造元に取材しましたが、いわゆる番号印刷するときのミスによって生じた不具合があると。これは、気付いたからよかったけれど、もしこういう事が沢山あるのであれば非常に心配です。
また、栃木県内の多頭飼育現場で、犬33頭にマイクロチップをまとめて入れたことがあったそうです。このとき、そのうちの3頭が結局マイクロチップが体内に移動してどこに行ってしまったのか分からなくなってしまった。これもマイクロチップの製造大手に取材したんですが、まずマイクロチップを入れるとき、注射器みたいなもので入れるのですが、体に穴が開きます。それが完全にふさがるのに3週間かかります。つまり、それまでに激しく動くと、スポンと抜けるリスクがあるそうです。もう一つは、生体と親和性のある成分でできているのですが、それが、皮下で定着するのに3カ月程かかるそうです。定着するまでに激しく動くと、身体の中をチップが移動し続けるそうです。これは今後、8週未満の子犬に打つことになるので、成犬成猫よりも子犬子猫のほうが激しく動くことで、今まで以上に体内で動くという事例が多分出てくると思います。そうなると、いざ読み取ったときにどこに行ったか分からないという事例は、多分出てくるだろうと思っています。この2点、マイクロチップ特有の不具合ですが、大変心配している部分です。
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厳罰化について
杉本:今回厳罰化の実現に関して、たくさんの署名をいただきました。そして、超党派の先生方、紹介議員になって下さった先生方にも大変お力添えをいただきました。
中野先生:今回、厳罰化の5年が実現できたのは大きく二つ要因があると思っています。
一つは、超党派の先生方も含め、多くの先生方が動物虐待の動画を見られて「これは本当にひどいと。できるものなら5年に引き上げたい」ということでご理解をいただけたこと。
もう一つは、実は一番反対したのが法制局ですが、法制局も動物愛護に理解がないから反対をした訳ではなく、法律をつくるときに他の刑罰とのバランスはどうなのか、法律の刑罰を厳しくする理由は何かという事など、それらをどう超えればいいのかということで、法制局とも何度も議論しました。一つはやはり動物虐待の事案も増えて増加傾向にあること。また今2年ですが、これに近い実際の刑罰も裁判所で出つつあるという実態が一つ。もう一つ、国民の感情としてこれを強く罰したいという思いが本当にあるのかどうかという事でした。ですから、皆さんが集めていただいた25万筆を超える署名を最後の後押しにしようと決めました。そして「5年にすべき」ということを最後まで訴えさせていただきました。
今回、本当に皆さんが集めていただいた署名がこれだけ世の中を動かすんだと、私も正直5年はハードルが高いと思っておりましたので、大きな改正を皆さんの力ですることができた事は、私にとっても非常に貴重な経験をさせていただきました。
佐藤弁護士:埼玉の税理士の事件は本当にひどいですが、それでも懲役1年10カ月、執行猶予4年という判決で、他の事件は不起訴や、略式罰金で終わってしまうことが結構多いです。殺傷罪はもともと2年以下で、数件やっても1.5倍で3年位ということで、犯罪累計の中では、やはり軽い方であるという感覚があります。かつ、懲役が3年以下になる場合には、執行猶予が付けられますので運用上は、原則執行猶予ということになってしまいます。警察もたくさんある犯罪の中で、力の入れ具合も変わってくるというのは仕方ないと思います。
そういう意味では、今回5年ということで、犯罪の重さとしても重いほうになりました。社会の認識もそれに合わせて変わってきますし、刑罰には犯罪抑止機能もあると思うので、そういう意味で重い犯罪というところで抑止にはなっていくと思っています。
また、きちんと裁かれないと「法が裁かないのなら自分たちが裁いてやる」と民間の人たちがSNSなどで過剰にプライベートの情報を流すなど色々なことが起きてきます。法治国家として妥当ではありません。司法に対する信頼を取り戻す、そういう意味でもきちんと妥当な刑を定めていきましょう、ということだと思います。
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