このたび当協会Evaは、京都府京丹波町の犬のブリーダーWANLINE(ワンライン)で代表を務めていた夫とその妻に対する獣医師法違反事件について、愛護動物傷害罪(動物愛護管理法第44条1項違反)で再捜査の上、訴追していただくよう京都地方検察庁宛に要望しました。
獣医師以外による帝王切開は、法令上明確に禁止されています。
第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を
定める省令(令和3年環境省令第7号)
第2条6号チ
「販売業者~にあっては、販売~の用に供するために犬又は猫を繁殖させる場合であって、帝王切開を行う場合にあっては、獣医師に行わせるとともに、出生証明書並びに母体の状態及び今後の繁殖の適否に関する診断書の交付を受け、5年間保存すること」
この省令は、動物取扱業者の基準遵守義務を定める動物愛護管理法21条1項を受けて環境省が制定し、令和3年6月1日に施行され定められています。(前記省令の施行日と同日に環境省が作成した「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針」の第3の6にも同じ記載があります)。
繁殖犬の帝王切開は、獣医師以外の者が行ってはならないことが法令上明確であり、犬猫の身体に対する重大な侵襲を伴う帝王切開行為は、違法であることはいうまでもなく、動物愛護管理法違反(第44条1項)に該当していると考えます。
帝王切開手術には、感染症や出血、麻酔薬の量やタイミング・管理、術後の疼痛管理などさまざまなリスクがあります。獣医療の知識を得ていない者は、これらの問題点を何一つクリア出来ないことから、無資格者の帝王切開は、到底手術などとは言えず単なる腹を切る殺傷行為に他なりません。本件において、被告人が麻酔をしていたことをもって、みだりに傷つけたとの立証が困難と検察庁が判断したとしても、獣医療に関する知識の全くない無資格者が、適切な麻酔の量やタイミングを図れるはずもなく、また何層にも渡る腹部の切開や縫合の手技も自己流の杜撰なものであったに違いありません。ましてや、素人が術後の疼痛管理を出来る筈はなく、無資格者による帝王切開が、犬にとってどれだけの危険と予後が苦痛であったか火を見るよりも明らかです。
長い期間、獣医療を学び獣医師国家資格を取得した獣医師の技術と経験をもってしても、帝王切開は、慎重かつ危険を伴う手術であることから、無資格者が適正に行えるものではありません。
現在、長野地方裁判所松本支部で公判中の長野県松本市、犬の繁殖業者「アニマル桃太郎」の動物虐待事案において、長野地方検察庁松本支部の検察官は、繁殖業者の元代表による無資格・無麻酔帝王切開について、動物愛護管理法違反(第44条1項)として追起訴しました。
被告人は、ドミトールという薬剤を使用していたとして動物傷害罪の成立を争っており、当該薬剤を使用していたかの事実が大きな争点となっていますが、麻酔の有無に関わらず、無資格者が安易に腹部を切開することに相当の苦痛があったであろうことが複数の証人により明らかになっています。
獣医療資格を持たない者による帝王切開について、当協会Evaは、殺傷行為として動物の愛護及び管理に関する法律違反(同法第44条第1項愛護動物殺傷罪)としてあらためて捜査し、訴追していただくよう要望します。
(2023年5月18日)
4月26日、京都府京丹波町の犬のブリーダーWANLINE(ワンライン)で代表を務めていた夫とその妻の初公判が京都地裁であり傍聴してきました。
この事件を知ったのは、2月末。長野県松本市の無資格者による帝王切開事件に続き、またもや獣医師免許を持たない者による帝王切開が行われていたことに愕然としました。その内容は、昨年10月に京丹波町の事業所内で、フレンチブルドッグ2匹に個体認証用のマイクロチップを注入器で装着した疑い。また、同月1~24日、フレンチブルドッグ3匹とボストンテリア3匹に帝王切開をした獣医師法と動物愛護法違反の疑いです。
獣医師法違反について審理
◆検察の公訴事実
京都府内のワンライン株式会社事業本部内にて、共謀し、
令和4年10月~(おそらく12月までの間)21回、21頭の犬に麻酔をかけ帝王切開をおこなった。また飼育動物2頭に注射器を使いマイクロチップを装着した。
◆裁判官から黙秘権の告知
◆罪状認否
元代表:各事案について間違っていない。
弁護人:公訴事実について間違いはなく争わない。が、獣医師法に違反しているか慎重に検討されたい。
元代表の妻:各事案について間違っていない。
弁護人:公訴事実について間違いはなく争わない。が、慎重な判断をお願いしたい。
◆証拠調べ手続き、冒頭陳述
元代表は、ワンラインの代表取締役で元代表の妻は事業本部長。13年前から元代表は、帝王切開を行い元代表の妻は、補助をしていた。
マイクロチップは、当初元代表が行っていたがその後元代表の妻が装着をしていた。
平成29年、令和4年に保健所から指導を受けていたが続けていた。
◆証拠意見
元代表弁護人・元代表の妻弁護人:全て同意します。
各犬の種類、事業所を明らかにするもの、事業所の手術室を明らかにするもの、獣医師の供述調書「マイクロチップ、帝王切開共にやっていない」との旨。
12~13年前に始めたこと、帝王切開は元代表の妻は補助で犬に触れることはない。マイクロチップのやり方を元代表の妻に教えやっていた。
平成29年行政指導があった時は、帝王切開はある程度慣れてきていた。
マイクロチップは令和4年6月に義務化されてから装着率が増え、元代表の妻がやっていた。
次回公判は両名とも6月。
公判では、動物愛護法違反が取り下げられ獣医法違反のみでした。その理由が麻酔をしていたからだとしたら非常に納得いきません。麻酔の量やタイミングはもちろんのこと、獣医師の資格を持たない素人が、帝王切開などといった大掛かりで母犬にも仔犬にもリスクのある手術が満足にできる訳がありません。しかもやったことは認めるが獣医師法に違反しているか慎重に検討して欲しいとは呆れます。
昨年10月には、大阪府和泉佐野市のブリーダーの男が、香港へ輸出販売する犬7頭に対し、獣医師でないのに自宅で注射器を使ってマイクロチップを装着する医療行為を行った獣医師法違反と、輸出する犬2頭の検査を空港で受けた際、獣医師の記名と押印がある偽造の証明書を提出した偽造有印私文書行使の罪で、懲役2年 執行猶予3年の処分が下されました。
今回の事案は、無資格者による殺傷の罪(動愛法44条1項)でも問えるような行為であることから、麻酔いかんによらず厳しい処分を切に望みます。